序章(Prologue)
「せ・・先生!!」
さかのぼる事、平成28年5月の新緑が眩しい良く晴れた昼下がり。
社内では新しい計画案に対する担当者を決める会議を
行っていました。
営業部から回ってきた書類に目を通しながら、
「この案件の担当は・・・」
淹れたてのコーヒーを一口、ゆっくりと口に運びながら、一言。
「井上!いけるか!」
設計部長の声が静かに響き渡る会議室。
「分かりました!」
受取った資料に目を配り、どういった構成の共同住宅とするかを営業担当の松岡と話し合い、早速現場へ。
どんな建物を計画する場合でもまずは現場。
周りの建物や道路との関係性。その敷地が持つ魅力は何か。
そんな事を考えながら敷地をぐるっと周り、ふと目に留まったコンクリートアーチ。
ノウゼンカズラが綺麗に咲き誇り、アーチには何やら文字が刻まれている・・・
「長久手フラッツ」
現地調査を終え、プラン提出の日程を松岡と調整し、近々行われるマンション見学会にて提出する事が決まった。
現地調査の内容を踏まえ、諸条件を精査しつつ、ラフプランをまとめていく・・・
初期段階の計画は設計のコンセプト、核となるものを模索する作業でもあり、時間はいくらあっても足りない。
しかし提出の期限は刻々と近づき、若干の焦りも感じる何とも言えない時間が経過する。
そんな折、再度営業からの資料に目を通していると、ふとした文言に目が止まった・・・
お施主様のお名前は「I様」で職業は「専門学校か短大で美術を教えている」
・・・I先生・・・?
脳裏に20数年前に卒業した専門学校の先生がよぎった・・・
「偶然・・・かな?」
そしてファーストプラン提出の日。
見学会の会場となる共同住宅の駐車場でI様の到着を待つ私、設計部の井上と営業の松岡。
そこに管理会社の車が一台到着。
「バタン!」
車のドアが閉まり、中からI様と思われる方が奥様と共にゆっくりとこちらに向かってみえました。
「I様ようこそお待ちしておりました!」
営業らしく、爽やかな挨拶でお出迎えする松岡。
「どうも松岡さん。」
・・・聞き覚えのあるその声の主は・・
「せ・・先生!!」
・・・その姿は20数年間お会いしていなかったとは思えないぐらい
当時の雰囲気そのままのI先生でした・・・
「先生は覚えていらっしゃらないと思いますが、昔、専門学校で先生からデッサンを教えて頂いた井上です!」
「・・・誰あなた?」となるかと思いきや、そこは大人のI先生。
「・・・ああ・・なんか見たことある顔だと思ったら・・・」
とのお言葉を頂きました。
(続く・・・)